致日语教育工作者
日本語教師関係者へ
1. 大枠を変えずゆっくり変化するJ.TEST ----------------------------------------------------------------------------------- ・「日本語能力試験」(1984年開始) 読解:聴解=3:1(2009年まで) → 2:1(2010年から) *聴解の比率が高くなる ・「日本留学試験」(2002年開始)*中国未実施 読解:聴解=1:2(2009年まで) → 1:1(2010年から) *読解と聴解が同じ比率に ・「BJT」(1996年開始) 読解:聴解=約1:2(2011年まで) → ? (2012年から) *2012年以後大幅改革予定 -------------------------------------------------------------------------------------------------「J.TEST AD試験」(1991年開始) 読解:聴解=1:1(当初から変化なし)
「日本語能力試験」は2010年から読解と聴解の比率を2:1に変更し、聴解の比率が以前より高くなりました。また聴解の比率が高かった「日本留学試験」は、2010年から、読解と聴解の比率を1:1に変更しまた。 これらの変化に対して「J.TEST」は、1991年の開始以来、読解と聴解の比率はバランスの良い1:1のままです。各試験の比率は「J.TEST」に近づいてきているかのようです。
(2)設問数と誤差
「日本語能力試験」には、文字語彙や文法、漢字問題があり、「日本留学試験」はそれらが一切ありません。もっぱら「全体を把握すること」が重視されています。 この方式で測定誤差を少なくする為には、読む文章(=問題数)を多くしなければならないのですが、一度の試験で30~40の文章を読むことは受験者の負担になりすぎるので困難です。しかし問題数が少ないままだと1問に対する配点比率が高すぎて誤差が大きくなります。 設問が20問しかない場合、17問正解の人と15問正解の人は点数では相当差がつきます。しかしこの差が誤差の範囲内なのか能力差なのかは微妙です。 学問的な厳密さを求めて出題形式を制約し設問数を少なくする。測定誤差を少なくするために問題数を増やしたいが受験者の体力を考慮して設問数が少ないままだと誤差が大きくなる。これはジレンマです。
「日本語能力試験」も特に聴解で大きな変化があり、J.TESTで採用されていた「応答問題」が加わり、設問数も30から37に増えました。(N1の場合) (読解においても「J.TEST」の短作文問題に準ずる問題が加わりました)
J.TESTは当初から、「少ない設問で誤差が大きくなるリスク」より、「多くの設問よって誤差を少なくする方法」を採用してきました。両試験が聴解と読解の比率だけではなく、形式も「J.TEST」に近づいてきているかのようです。
(3)各試験の変化と影響
「日本留学試験」は大学進学の為の試験で、「日本語能力試験」と「J.TEST」は一般向けの試験です。後者二つは目的が同じです。目的が同じ試験の形式が似た場合には受験者に影響があります。 これまで「日本語能力試験」と「J.TEST」は、読解と聴解の比率や出題形式が異なり、それぞれが特徴を持った試験でした。日本語学習者は、異なる尺度での能力測定のために、両方の試験を受けていたと思います。しかし、2つの試験が似た形式になったならば、どちらか一つの試験を受けるだけで十分だと考えることでしょう。 この時に影響を受けるのは、試験回数が少ない試験です。
3 試験の形式と現実世界
(1)前もって目的を明示する
音声を聞く前に、聞き取る点を指示しておくタスク・リスニングは、授業でよく行われます。確かに実生活の中でも天気予報などは、はっきりとした目的をもって聞きます。しかし会議や講演などでは、「大切なことを聞き逃さない」という漠然とした目的でその場に臨むことになります。常に具体的な課題が事前に与えられているわけではありません。 では、現実世界でタスク・リスニングが必ずしも多くないことを理由に、試験も現実にあわせるべきでしょうか。我々はそう考えません。現実の世界を試験の出題形式の根拠とはしていません。
現実の世界を再現し試験をすべきだという考えがありますが、人の活動は広範囲にわたり多種多様です。現実を忠実に再現しようとすればするほど、その再現された状況は、より限定的なものになります。総合的な能力の判断のためには、何百という場面を再現しなければなりません。 試験は、限られた時間内で受験者の様々な能力を引き出すことによって総合的な能力を予測し測定することを目的としています。現実の世界に近いような形式もあればそうではない形式のものもあります。このため、例えば読解試験では現実の世界ではほとんど存在しない空白や括弧のある文章も、試験ではよく使われます。 聴解試験においても、受験者の能力を引き出しために、様々な形式が用いられます。
(2)「ビジネスJ.TEST」でも漢字問題がある理由 このように様々な形式の問題によって受験者の能力を引き出し、総合的に能力を判定するのが試験です。
4 語学教育の目標と試験の限界
(1) 上級者とは
語学教育における上級者の目標を「教養のある母語話者レベル」とする場合が多いようです。「教養のある」とは、日常会話レベルではないということを意味します。多くの言語では、日常会話レベルは、高等教育の必要がありません。字が読めなくても会話だけならできる場合があります。これに対して言語教育の目標は文字文化も含んでいます。コミュニケーションと言えば、会話能力を想像しがちですがそうではありません。 ヨーロッパ言語共通参照枠(CFE)(*1)では上級者(C2)レベルを、読解力において「抽象的で,構造的にも言語的にも複雑な,例えばマニュアルや専門的記事,文学作品のテクストなど,事実上あらゆる形式で書かれた言葉を容易に読むことができる」(*2)としています。「容易に読むことができる」レベルが上級者です。 (*1)Common European Framework of Reference for Languages 中国語訳「欧洲语言共同参考框架」 (*2)大阪外国語大学の資料よりhttp://homepage.mac.com/jmajima1/bukosite/Aufsaetze/Matanironshu1.pdf)
短時間の語学試験によって、「事実上あらゆる形式で書かれた文書を容易に読むことができる」能力の測定には限界があります。語学試験は受験者の語学能力を推測するにとどまります。 なお「ビジネスJ.TEST」では、文学作品を読む能力は出題されません。一般的なビジネス文書での能力測定となります。
(2) 会話試験の必要性とJ.TEST
聴解試験と会話能力の相関関係が高いと言われています。このため、会話能力を推測するためにも、ある程度の量の聴解試験が必要です。しかしながら読解試験と聴解試験によって会話能力を正確に測定することはできません。 会話能力の測定のためには「会話試験」が必要です。 J.TEST事務局では、2011年中に会話試験の実施を発表します。
5 試験問題の非公開と公開について
(1) 各試験の動向
J.TESTは、2011年末に、第99回試験を迎えます。十分な問題数に達します。試験問題を公開しつつ統計処理する方法に着手します。
(2)統計処理の限界
問題を非公開にし、得点等化処理をしているETS主催のTOEICでさえも、プラスマイナス35点(最大70点)の誤差があると公式に述べています。どんなに厳密に統計処理をしても限界があります。 (3)J.TESTは今後も試験問題を公開
今回新しく登場した「ビジネスJ.TEST」も、「J.TEST」と同じ理念のもとで実施されます。 (1) 聴解と読解の比率をバランスのよい1:1とし、その大枠の中でゆっくりと変化します。 (2) 様々な出題形式によって受験者の能力を引き出す試験を研究します。 (3) 日本語学習者の立場にたち試験問題を今後も公開します。 2011年1月7日 J.TEST事務局 |
